シンポジウム

海を知り海から学ぶ

海洋教育・救護
サーフパトロールの最前線から

13:00-14:30

茅根創

東京大学理学系研究科教授
東京大学海洋アライアンス推進委員

1.東京大学海洋教育センターと海洋教育の実践例

東京大学海洋教育センターは,2010年に,海洋教育の普及促進を目的として設立され,これまで全国40の海洋教育促進(研究)拠点において,海洋教育の実践とカリキュラム開発を進めてきた(図1).毎年1回,全国の海洋教育関係者と生徒による海洋教育サミットを開催し,2021年第8回(オンライン)には,70校,600名が参加した.

実践事例の多くは,海での体験活動をもとに行われている.ビーチクリーンは,全国の多くの学校で実践されている.これによって海洋環境保全だけでなく,集めた海ゴミがどこから来たのかを調べることによって,陸と海のつながりや,海を通じた近隣諸国との関係に気づくことができる.北の海では,地元の川に帰るサケの減少から,グローバルな問題に気が付き,稚魚放流・サケ牧場など具体的な対策の提案につながる.南の海では,地域の関係者の支援で,子供たちにスノーケルや巻き網の体験学習を行って(図2),海の価値やその危機を,ローカル・グローバルな問題としてとらえさせることができる.

2.体験活動と事故

いずれの実践事例でも,学校の近くの海での体験活動から始まって,教科を横断した知識を獲得し,グローバルな公共財としての海とその危機に目を向けさせることができる.しかし現在,安全に対する過度な配慮から,海洋教育の出発点である「海に触れる体験活動」が著しく制限されてしまっている.海での活動は危険を伴うものであるが,ひとたび重篤な事故が起こると,責任が厳しく追及される.十分な準備や配慮をなさずに事故が起これば,責任が問われるのはやむを得ない.しかしどんなに準備・配慮していても,事故が起こればそこにはなんらかの「安全配慮義務違反」があったとして,管理者(教員)の責任が問われる.こうした状況の中,「行かないのがいちばん安全」という状況になってしまう.

教員は,既存の教科授業で手一杯である.その上,多くの準備と教科とは異なるスキルが必要な海洋の体験活動を,厳しい責任まで現場の教員に負わせて行ってもらうことは難しい.海洋教育を全国の学校に広めるためには,海の体験学習に特別のスキルを持つ外部団体に,その安全管理の一部も任せて実施する仕組みをつくることがどうしても必要である.

図1 東京大学海洋教育センターの海洋教育促進(研究)拠点

図2 竹富町海洋教育副読本.海洋の体験活動がベースである.

図3 『小・中・高等学校における安全な海辺の活動』.この指針では,安全の3原則として,計画,実施,救命をあげている.

武田聡

東京慈恵会医科大学救急医学講座主任教授

山梨県甲府市の出身。医師になり循環器を専門とするようになり、突然の心室細動による突然死を多数経験してきた。

バイスタンダーCPRが増加してきたとは言え最新のデータでも目撃ある心停止に限定しても胸骨圧迫が行われたのは6割のみ、バイスタンダーAEDによる除細動が増加してきたとは言え最新のデータでも目撃ある心停止に限定しても除細動が行われたのは何とわずか5%のも、まだまだバイスタンダーCPRとバイスタンダーAEDの普及啓発で救える命があるはずである。皆さんと一緒に一人でも多くの方を突然死から救命したいものである。

・東京慈恵会医科大学 救急医学講座 主任教授

・東京オリンピックパラリンピック AC2020教育研修担当 責任者

・日本救急医学会認定急科専門医

・日本循環器学会専門医

・日本インターベンション学会認定医

・東京消防庁救急隊指導医

音野太志

一般社団法人Japan Water Patrol代表理事

米国や豪州では、海浜での安全管理の専門機関の一つであるライフガードによる、海を活用した教育プログラムである「ジュニア・ライフガードプログラム」が実施されている。内容はスポーツのみに留まらず、海そのものに対する広い知識や技術・考え方や、事故を起こさない為のリスクマネジメント、有事の場合にどのように対処するかなど多岐にわたる。

ライフガードが、子供達に対する教育プログラムを実施する意義は、他の海洋スポーツを用いた教育プログラムとは、若干異なるように思われる。

ライフガードは、海浜でのリスクマネジメントを専門とした職業である。

通常、海浜での活動を行う場合は、予め予定されたプログラムがあり、その日の気象や海象に応じて開催の可否が判断される。

海には、波や風、潮汐や波によって発生する流れなど、常に様々な危険因子が存在している。ライフガードは、日々の業務の中で、変化し続ける海浜の状況と、訪れる人々の状況を把握しながら、全ての危険因子を把握し、安全を構築している。

ライフガードが持つ海に対する知識や技術、能力を、海浜での教育プログラムに取り入れるとどうなるか。例えば、活動予定エリアで波が発生していた場合、多くは危険な為に活動が制限される。しかし、波を知り、波に対して高い対応能力を持っていれば、参加者の能力に合わせた形で、波そのものを安全に体験する事が可能になる。その結果、自然の力を体感する事ができ、楽しさや怖さを学ぶ事ができる。

海浜で決められた活動を行うのではなく、海浜で発生する自然状況そのものを安全に体験し、それを教育プログラムとして実践することで、海浜で発生する危険を学び、自らの身を守るリスクマネジメントを身につけることが可能になる。

海を深く知ることで実践が可能になり、その結果、海から多くの事を学ぶことができる。

ライフガードが開催する教育プログラムは、海浜で行う全てのプログラムのベースと成り得るものと考えられる。

日本における水上バイクレスキューの先駆者であり第一人者。

2002年、Hawaiiにて、水上バイクを使用した最新の救助技術を学ぶ。

その後、国内での普及活動を行うと共に、冬のHawaiiにて、数多くのサーフィンコンテストにてWater Patrolとして活動を行う。

水難救助や救急救命及び、リスクマネジメントに関する講習を開催して知識や技術の普及に努める一方、子ども達を対象とした海浜プログラムも行っている。

​2014年より、ハンディキャップを持った方々を対象としたサーフィンと海水浴の体験イベント「AccesSurf Okinawa」を主宰している。

(一社) 沖縄ライフセービング協会 代表理事

(公財)琉球水難救済会 理事

AccesSurf Okinawa(アクセスサーフオキナワ) 主宰

日本ライフセービング協会 サーフライフセービングインストラクター

国際ライフセービング連盟 Instructor Beach Lifeguard

Wind Ward Community College Ocean Safety Educational/Surf Risk Management 修了

国際救命救急協会 アドバンスインストラクター

アメリカ心臓協会 BLSインストラクター

日本海洋人間学会 代議員

教育学 修士

〈主な著書〉
海浜指導者養成テキスト 琉球大学
絵本 海はともだち 文進印刷株式会社
子どもと楽しむ海浜活動安全管理  ガイドブック&プログラム(共同出版株式会社)